いろいろあったけどなんとか Les Pianos にたどり着いて、中に入るとおぎちゃんが後ろのドアを開けて入ってきた!
『おぎちゃあああん!』
『来れたね!』
ハグハグ。
フィリップもニコニコしながらやってきた。
友だち目指してやってくるって、これがあるから嬉しい。
挨拶もそこそこに、宿泊予定の小部屋に案内してもらうことに。
『あいちゃんの部屋3階よ…』
と言うので、わたしのトランクは1階の混沌スペースに置いておき、現場確認をすることに。
3階にリビング的な広い部屋があるんだけど、ここには高校生男子2人が暮らしていて、そこだと落ち着かないだろうって配慮から小部屋を提案してくれた。
小部屋って、小部屋って…
階段を上がりきったところに、はしごが降りた穴が開いていて、そうよ!これよ!これこそが小部屋よ。

猫の家を人間サイズにした感じ…笑
はしごすぎてさすがに荷物をもっては上がれないので、リビングに荷物は置いて小部屋を寝床とすることで一件落着。
わたしの居所が決まるやいなや、おぎちゃんは『ランチの準備があるから〜』とレストランに戻っていった。
さて、さて。
シャワーも浴びたいけど、小部屋の現状確認が先だと踏んだわたしは、早速現場にあがる。
するとどうだろう、高校生男子がここにちょいちょい生息していた形跡を発見。
お菓子の食べかすとジュースの飲みカス。
とりあえず掃除だな…
階段にあった掃除機を引っ張りあげて、巣穴を整備。
パリに来てやった最初のことが巣穴の整備かと思うとおかしくなり、にやにやしながら、マットレスも全部きれいに掃除して、カラフルなシーツをかけたらめっちゃいい感じになった。

リュック開いて着替え出して、シャワーを浴びるとさすがに疲れを感じたわたしは、早速巣穴へ潜り込む。なんだか楽しい。

しばし横になり、午後になっておぎちゃんの声がするので降りて行くと、『今日はタンゴコンサートよ、エンパナーダを100個作るよ!いまから買い物に行ってくる!』
『ん…?』早速ながら、この展開…
なんかゾワゾワする。
わたしも一緒にでて、お昼ご飯を物色に。
わたしがランチを持って帰ってきた時にはもうすでにおぎちゃんの姿はなく、フィリップがにこにこしながら『疲れてない?今晩はコンサートだよ』と。
『うん、ちょっと休んだし、大丈夫』
と言いながら、さっきおぎちゃんが『エンパナーダ作るの手伝って』と言ってたのを思い出していた。

ランチを済ませ、お店に行くと、ランチのあとでみんななんとなくリラックスモード。
『で、エンパナーダって何?』
『南米の餃子みたいなやつだよ』とおぎちゃん
100個作るのね、なんとなくのんびりしているように見えるけど、大丈夫なのかしらね。
『大丈夫、大丈夫。あとで友だちも手伝いにくる』
『ふーん』

ミンチ肉と玉ねぎにゆで卵、干しぶどうにオリーブを丸く切ったパイ生地で包む。
エンパナーダの作業をしながら、おぎちゃんいろいろ冷蔵庫から取り出して、これはベジプレートとかガトーショコラのデコレーションとか、なんだかんだ説明してくるし、おかしいな?とは思っていたんだけどね。

『あ!メニュー書いて来なきゃ!』とかテリーヌをオーブンから取り出したと思ったら、『重し、重し…』とか言ってちょうどいいのがないし、手でしばらく押さえたりしてたら肉汁があふれたりして、わたし的にはこの時点でも何が起きているのかがよく分からず…
『あれだよね?今日料理するのって、おぎちゃんな訳かな?』って聞いてみたら、『友だちくるから…』『?…』

友だちはエンパナーダの助っ人じゃないのか⁈とその時はじめて、とんでもないことに巻き込まれていることに気づいたけれど、もうこの列車は走りはじめていて、わたしはしっかりと乗り込んでしまっていることにも気づいてしまったのである。

ペルー人の友だちがやって来て、彼の担当はスリランカ人のシェフが仕込んでおいたチキンの煮込み。

彼は付け合わせのご飯とポテトを用意しはじめ、わたしはひたすらエンパナーダを巻く。
巻けたエンパナーダを次々とオーブンに入れ、そろそろ目標達成かな?と言うタイミングで最初のオーダーが。
『ソースどうしようか?』とおぎちゃん
『え、今から?』とちょっと思ったけど、声には出さず、混沌とした作業台を片付けたりなんかしながら、戦闘態勢にスイッチを入れてみたりして。
その後、ほぼ間を置かず、テリーヌにチキン、野菜サラダなどなど次々にオーダーが入り始めた。おぎちゃんがわたしに説明していたのはすべて今晩のメニューだった訳だね。と言うことは、おぎちゃんとホルヘとわたしの3人が今晩のキッチンスタッフってこと…ね。

自覚した時にはもうコンサートが始まって、通常100席のホールには、ざっと倍はいるよね…笑
って言うか、次から次へとオーダーが飛び込んできて、もはや考えているひまはなく…
オーダーが入ったら、チキンとテリーヌ以外のメニューはすべてやる。

ホールではいい感じにタンゴに酔いしれる人たち、なぜかわたしはキッチンの中…笑
盛り付けてだして、盛り付けてだして、盛り付けてだして、盛り付けてだして…

コンサートはブレイクを挟み、後半に突入。
コンサートが始まると、少しペースダウンするが、それでもオーダーは続く。
コンサートは盛り上がりに盛り上がって、アンコールを繰り返しているが、そろそろお終い。
そこのタイミングで10時はすぎていただろうか。

ホールのスタッフがひとり『今日はこれであがりまーす!』と。
するとおぎちゃん『わたし外いくから中はお願いね〜』
まじか⁉︎
『大丈夫、わたしも手伝うから』
と、ありがたい言葉を残しておぎちゃんはホールへ。

その頃には洗い場に戻ってきたお皿が溢れ、盛り付けるお皿が不足しているという事態も発生。
『1分で洗える!』とご満悦で説明してくれた食洗機を回しながら、オーダーに対応していく。
ホルヘとふたり、今日初めてここにいるふたりがキッチンを切り盛り…笑えてくるが笑ってるひまはない。

そんなことをしているとデザートのガトーショコラのオーダーが。
『ケーキ乗せてフルーツちらして…?5ユーロはたかい?』
とひとり問答中のおぎちゃん。
『アイスのせたらいいじゃん』
と言いながら、ラズベリーのアイスを乗せて5ユーロ完成。

11時を過ぎたころ、用意していたものがそろそろなくなりはじめ、ようやく終わりが見えてきた。
ホルヘとふたりホールで小休止。

残りものを食べ、ひと息つく間もなく後片付け。
食洗機を回しつつ、キッチンを整え、12時が来ようとした頃、わたしのアタマがぐらり…
家をでてどれぐらい経ったのか…まだ2日は経ってないよね。

気分的にはもう1週間くらい前に感じる。ああ、さすがにもう休もう。

翌朝、フィリップに出会うとにやにやしながら開口一番『パリにようこそ!』だって…笑!

※エンパナーダの写真はありません。悪しからず