やっと本題。
昨夜のタンゴコンサート騒ぎで骨の髄まで、いい具合に疲れていたわたしは、横になった途端深い眠りに落ちた。
朝はのんびり。今日は午後にお茶会があり、展覧会も始まるし、準備しないとなぁ〜と思いつつもイマイチ動きがにぶい。
ちょうどランチタイムにかかっているので、先にお茶の準備をすることに。
お抹茶を漉したり、お菓子のチェックをしたり、お点前のシュミレーションしたり。
おぎちゃんが1時過ぎに戻ってきたので、大佐せんせーにデザインしてもらった“旅茶”ポスター、日本のコンビニでA3サイズに出力して持ってきた分をおぎちゃんに渡す。少しあとでLes Pianosに行ってみるとおぎちゃんがA4で出力したものもあわせてエントランスや窓、カウンターなど、ありとあらゆるところに貼ってくれたのでレストランの中が賑やかになっている。
さて、やるか。
エントランス横、窓際にあるガラステーブルがギャラリースペースとのことだったので、例のトランクを持ってきてテーブルの横に開く。
中に入っている器たち、いくつあるのか数えてる時間もないまま持ってきちゃったけど、まあ、ミラクルと言っていいんじゃないかと思うほど、ひとつも破損することなく姿を表してくれた!
今回は初めて台湾のエバー航空に乗ったのだが、ワレモノシールも貼ってくれたし、30キロまで無料だったりして全体的に好印象。
ANAのマイレージクラブにマイレージを貯めれない航空券だったため、エバー航空のマイレージプログラムに申し込んじゃったし、今度は台湾に行ってみるか…とか妄想しながらの移動は結構楽しかった。
話し逸れるけど、機内の非常時の動画がかっこよかったのも印象的だった。劇場仕立てでダンサーたちがモダンなパフォーマンスで非常時の行動を案内してくれるって、なかなかな斬新さ。
最近、ANAが歌舞伎仕立ての動画作ってて、あれもカッコいいけど、これもカッコよかった。
準備中はそんなことを考えてる余地はなかったけど…
とにかく持ってきた器たちを取り出して、テーブルに並べていく。トランクにはギリギリ満杯だったけど、テーブルにはちょうどいい量。
『行ってみないとわからない』って言いながら準備したとはだれも思わないよね…これ。
さて次はお茶会の準備。
翼くんに作ってもらった木のトレーにお棗に見立てたお茶入れと茶筅などを仕込んだお茶碗、袱紗をセットすると、殊の外いい具合。
2、3、日本にいるお茶の先生にメッセンジャーで確認をいれながら準備する。
今回の旅、『パリにお茶会しに行きます〜』のひと声で、お茶のお道具類もお菓子も木の蓋や茶筅筒まで、全部オリジナルで揃ったていう奇跡みたいな状況。
お抹茶は出発の3日前に詰めたてが、お菓子は2日前に作りたてのものがわたしの手元に届き、盆点前のお稽古に先生がウチまできてくれたり、本番直前までメッセンジャーで相談に乗ってくれるって言う贅沢さ。
ほんと信じられないくらい便利な時代になったなぁと思う。
本当にありがたい。
4時をすぎた頃、この日の参加者が集まって来てくれた。
初めてということがあり、お茶のこと、お菓子のこと、お点前のことなどを説明してからお茶を点てる。みんなにとってもの珍しいのと、静けさのせいか、めちゃくちゃ神妙にわたしを見るので、なかなかの緊張感の中でのお点前。
なんとかクリア!
左側の客人から順番にお茶を飲んでもらって、済んだお茶碗を戻してもらいつつ次のひとのお茶碗を運んでもらう(テーブル上の話しだけどね)っていうシステムが機能してなかなかいい感じだ。
開けたばかりのお抹茶はものすごくいい香り。
お点前に集中しているとなんだかふわっとリラックスしてきて、眠気を覚えたので、お客さんたちの様子を見回すとみんな眠そう。
『お稽古いくといつも眠くなるのよ』って伝えると一同、よかったとばかりに『うん、うん』と頷く。みんなやっぱり眠かったのね〜笑
そしてひと通りお茶がまわり、おかわりを尋ねて、誰もなかったので、おしまいにする。
終わったあと、みんなの顔が、ほわ〜ってなってるのに気づいて、わたしにもほわ〜が伝染。
参加してくれたひとりが、仕事でイライラしていたのがお茶飲んで『ほーっ』てなったって言ってたよってフィリップがあとで教えてくれて、お茶ってほんといいなぁ〜などとしみじみしたり。
“おもてなしのこころ”のもてなす側の喜びがどんなものなのか、を教えてくれる体験だった。
作品についてもみんな口々に『ステキね〜』『色がいいわ』『お話しがあるのね』とかステキな言葉でほめてくれるので心地よい。
旅茶キットは思った通り、日本ならではの世界観がおもしろいと、いろんな人たちが立ち止まって見てくれる。自分的にもなかなかいいのができたと。
今回、お茶会のスケジュールは事前におぎちゃんと電話でやり取りしながら決めたのではあるが、やっぱり来てみていろいろ思いつくことがあり、リクエストに応じてお茶会をすることにしてみた。そんなスタンスでいたらある日レストランにRodorigoがやってきて、『明日の夜、ここでコーヒーセレモニーやるよ』と言う。あの噂のコーヒーセレモニー!(おぎちゃんから聞いてた)がこんなタイミングで。話しを聞いてみるとアルゼンチン時間のナショナルコーヒーディに合わせてセレモニーすることになってるから夜なんだけどさ…と言うことなので、早速わたしのCérémonies du Thé (お茶会)もご一緒させてもらえないかと聞いてみた。ら、ふたつ返事でオッケー!とのこと。夜10時スタートって普通はワインの時間だけど…笑
と言う訳で、この日出会ったルーブル美術館のひとやチーズ屋さん、近くのギャラリーの夫婦など手当たり次第、出会い頭にお茶会やるよーって言ってみるけど、やっぱりワインの時間だもんね。
土曜日のジャズコンサートに展示初日に友だちになった画家のエスターが来てたので誘ってみたけど、やっぱりダメ。結局参加者はRodorigoとその友だちとわたしの3人。
そして夜10時過ぎ、グアテマラの布やなんかでデコレーションされてアルゼンチンにネット回線が繋がれて、予定より少し遅れてコーヒーセレモニーが始まった。
あらかじめ香りよく引かれた豆に湯を注ぎ入れ、唄を唄うRodorigo。
唄が終わると次は詩の時間。Rodorigoはそもそもシアター系のひとらしく、すべてがカッコいい(ちょっと怪しいけど…)。
10分ほどいろいろあって、いよいよ脇に用意していたコップにコーヒーを注ぐ。
最初の一杯は精霊たちに捧げられ、次にわたしたちにコップが渡された。
レストランにいる人たちにも運んで、Rodorigoが戻って来たところでコーヒーが入ったコップを手にとる。静かに目を閉じて祈りを捧げたあと、香りをかいで、ゆっくりと口に含む。
深い酸味。
喉を爽やかに流れていく。
おかわりまでいただいて、カフェセレモニーは終了。
さて、続き。
別のテーブルに移動して今度はお茶の時間。
少し説明してお菓子を食べてもらったあと、お点前を始めると、ふたりが固唾を飲んでわたしの動きを見ているので、なんかいつもにも増して動きがぎこちなくなりそうなのを気付かれないように…が、どうにもこうにも視線が集まりすぎて、手順に不手際が。
仕方ない、そのまま進める。
お茶が美味しく点てられることに意識を集中して、茶筅をふる。
カフェから持ってきたお湯の温度がいいのも手伝ってくれて、きれいにお茶が点ち、Rodorigoの前にお茶碗を置く。両手でお茶碗を取り上げると美味しそうな顔で香りを味わったあと、丁寧に口に含んで、満足そうに頷く。習わなくても客人の作法も心得たものだわ。こころは繋がっていますね!もうひとりのお客さまにも心を込めてお茶を点て、お茶碗を渡すとこちらも、丁寧に美味しそうにのんでくれたあと『今まで何回かのんだことあるけど、これ、香りもいいし口当たりもよくて、今までのものとは別モノだ!』とすごい褒め言葉。
『京都のお茶屋さんが出発直前に袋詰めしてくれて、送ってくれたのよー!』
と、日本のお・も・て・な・し、のこころを伝えてみたりして。
それにしても、こう言う反応いただくと、ほんとにやってよかったと思う。
おかわりできますよ、と言うのにRodorigoがすかさず反応してくれ、もう一杯点ててわたすと綺麗にのみほしてくれた。
おしまいの点前をしながら、ほんのすこし余韻を味わってもらい、夜の茶会はおしまいになりました。
そして次の日、Les Pianosで働くエリザのリクエストがあり、夕方お茶会をすることに。
角占いみたいにレストランの片隅に陣取ってお茶を呈する角茶人みたくなってきた!
『最高のお菓子とお抹茶あり〼』
ってことで4時過ぎ、わらわらわらわら…エリザがみんなをつれてやってきてくれた。
ん⁈かわいい男の子(Moくん)もお客さんとしてやってきたぞ!
さっきからうろうろしていた、レストランの上の住人ユリーと通りすがりの女性も加わってくれたのでお客さまは7人、わたし合わせて8人でテーブルを囲む。
まずお菓子を食べてもらって…さてお点前。
7人に凝視されながらのお点前。
昨日とは違う緊張感。
ここで気づいたのだけど、普段のお点前だとお客と対面することはないからこんなに緊張しないんだわ…テーブル茶事の盲点だった。わたしのすぐ隣に座っているエリザにお茶をだしたあと、となりのモーくんにハリネズミのお茶碗を見せて『これにする?』と聞くと目をきらきらさせながら『Oui(うん)!』かわいい❤
お茶の泡がふわふわで、お子さまの口にもいい温度をイメージして少し長めに茶筅をふる。
お!いい感じに点った。
モーくんの前にお茶碗を置くと嬉しそうに両手に茶碗を抱き、お茶をひとくちすする。
『!!、美味しい!』
わたしのこころは完全にノックアウトされ、ちょーにこにこ(に違いない)顔で
『美味しい⁈よかった!』
彼が大事そうに飲みほすのをおとなみんなで見守り、一堂こころをときめかせつつ自分の番がくるのを待ってくれていたのが伝わってくる。
それでも焦らず、いち碗いち碗、丁寧にお茶を点ててお茶を飲んでもらいながら、少しお茶がいかに貴重なもので、その貴重なお茶を入れる器がいかに大切に扱われてきたかと言うような話しをしながら、ゆっくりと時間が流れる。
最後のお客さまがゆっくりとお茶を飲み終えたあと、
『美味しい…最高のバースデイプレゼントだわ!』
と、言ってくれた。
お誕生日デートにLes Pianos来たら、お茶席があるのを見つけて偶然参加してくれたそうで。偶然と偶然が集まって、みんながひとつになった席だった。
一期一会と言うけど、ほんとにそうだ。
この1週間ほどの間に、いろんなひととの出会いがあり、会話があった。
わたしは日本人として陶芸家としてParisの片隅で、日本のこころとはどんなものなのかと言うことをフランスの人びとに伝えることで、わたし自身が日本のこころを体感する貴重な体験となった。
わたしみたいに軽〜い日本人がこう言うのもなんだけど、日本文化のなかでそだつことができたのは『宝』だと思う。
つぎ、月末の『旅茶』のお茶席では屋久島からベジ料理人のミキちゃんが合流してお菓子を作ってくれるって、さらに贅沢なことになる予定なので、今から胸をときめかせてます
コメントを残す